3)健常人、あるいは患者さんを対象とした「治験」の具体的な内容

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● 次に、「治験」の具体的な内容について説明しますが、「治験」は以下のようなステップに分けて、安全性を確認しながら、段階的に実施していきます。

「治験」のステップ

(1)健常人を対象とした臨床第Ⅰ相試験(単回投与試験、反復投与試験)
(2)患者さんを対象とした臨床第Ⅱ相試験
(3)患者さんを対象とした臨床第Ⅲ相試験

それぞれについて、順番に説明します。

(1)健常人を対象とした臨床第Ⅰ相試験(単回投与試験、反復投与試験)

● ヒトを対象とした最初の治験は、通常は健常成人男子を用いて、新薬候補品を1回投与する単回投与試験を実施して安全性を検討し、問題がなければ、次に新薬候補品を1~2週間連続投与する反復投与試験を実施して安全性等の検討を行います。

① 単回投与試験

● 単回投与試験では、通常は同意を得た少人数の健康成人男性を対象にして、少ない量から順に新薬候補品の用量(5用量位)を選び、少量から安全性(副作用や臨床検査値)を確認しながら徐々に用量を増やして、十分耐えられる程度(忍容性)を観察して、予見される副作用の種類と程度を検討します。

● また、同時に血液や尿を採取し、身体の中にある新薬候補品の成分の量を測定します。

● 尚、「治験」では、被検者の主観的なバイアス(思い込み)を除く目的で、被検者の内の数名は、新薬候補品ではなくて、プラセボ(薬理作用のないもので、外観上は新規候補品と区別がつかないような偽薬のことをいう)が投与される方式が用いられます。

● このような方式を用いることで、試験の客観性を高めるようにしています。

● 表1-1に、単回投与試験の一般的な治験のスケジュールの観察、調査項目を示します

● 初めに、「治験」の開始前に、被検者としての適格性の確認、同意説明文書の説明、同意の取得、自覚症状、他覚所見、臨床検査の測定等を行い、対象として問題がなければ症例登録が行われます。

単回投与と言えども、被検者の安全性を考慮して、3泊4日程度の入院の上で試験は実施されます。

● 試験は、スケジュール表に応じて、自覚症状、他覚所見、臨床検査、血中濃度測定のための採血が実施されます。

● この事例では「治験薬」の投与後48時間後の検査、採血後に退院出来ますが、7日目にはもう一度治験の実施施設に来院して、問題のないことの確認が行われます。

② 反復投与試験

● 単回投与試験で問題が何もなければ、次のステップとして、通常は同意を得た少人数の健康成人男性を対象にして、新規候補品の3用量位を選定して、1~2週間の連日投与試験が行われます。

● この試験では、低い用量から安全性(副作用や臨床検査値)を確認しながら徐々に用量を増やして、十分耐えられる程度(忍容性)を観察して、予見される副作用の種類と程度を検討します。

● 尚、単回投与試験と同様に、「治験」期間中に血液や尿を採取し、新薬候補品の血中・尿中濃度を測定して、ヒトにおける薬物動態を検討します。

● また、単回投与試験と同様に、新規候補品ではなく、プラセボを服用する被検者も参加します。

● 表1-2に、反復投与試験の一般的な治験のスケジュールの観察、調査項目を示します。

● 手順は、単回投与試験と同じような内容になりますが、この事例のように1週間の連日投与試験(この事例では1日1回投与の場合で示しています)でも、単回投与試験と比べると、入院期間が長く、検査、採血回数が多く、拘束される期間がより長くなります。

(2)臨床第Ⅱ相試験

ヒトを対象とした臨床第Ⅰ相試験(単回、反復投与試験)で、問題が見られなければ、次のステップである臨床第II相試験について、同意を得た100人から200人位の「目標にした疾患(例えば、高血圧症)」を有する患者さんを対象として、3~4の用量の新薬候補品の投与を行います。

この試験では、有効性(高血圧症なら血圧低下作用)や安全性を比較・検討し、用量や投与間隔や投与期間等について、適切な条件を探す試験を行います。

この場合、通常、新薬候補品の他に、プラセボ(薬理作用のないもので、外観上は新規候補品と区別がつかないような偽薬のこと)も投与して、二重盲検比較法を用いて、主観的なバイアス(思い込み)を除いた方式を用いて試験を行います。

二重盲検比較法とは?

二重盲検比較法とは、新しい「お薬」とこれまでの既存薬とを比較する試験ですが、この試験のために、両方の薬剤を外見上は、誰が見ても違いが分からないような薬を作り試験をするもので、医師も患者さんもどちらの薬剤を服用しているか分からないようにして、主観的なバイアス(思い込み)を除いた方式で行う試験のことです。どの新医薬品も、通常は、このような試験をして評価されています。

(3) 臨床第Ⅲ相試験

● 臨床第Ⅱ相試験で、新薬「「候補品の有効性、安全性に関して、期待される用法・用量の範囲が想定された場合には、次のステップである臨床第III相試験に進むことになります。

● この試験では、同意が得られたさらに多くの「目標とした疾患(例えば、高血圧症)」を持つ数100人から1000人を超える患者さんを対象として、新薬候補品と従来用いられてきた既存薬(既存薬がない場合には、再度プラセボ)を用いて、有効性、安全性を比較する試験を実施します。

● 通常、この試験では、先ほどもお話ししましたが、二重盲検比較法を用いて試験を行います。

● 表2に、臨床第Ⅱ相試験、第Ⅲ相試験におけるスケジュールと観察・評価項目を示します。

●「治験」の手順としては、臨床第Ⅰ相試験と同じように、「治験」の開始前に、被検者としての適格性の確認、同意説明文書の説明、同意の取得、自覚症状、他覚所見、臨床検査の測定等を行い、対象として問題がなければ症例登録が行われます。

● 治験薬の種類によっては、入院して「治験」を行う場合もありますが、一般的には、外来で定期的に診察を受けて、「治験」が実施されます。

●試験は、スケジュール表に応じて、有効性の評価項目、自覚症状、他覚所見、臨床検査、血中濃度測定のための採血が実施され、最終日に、治験期間を通した有効性、安全性の評価が行われます(表2の事例では、臨床第Ⅱ相試験は24週間投与の試験、第Ⅲ相試験は52週間投与の試験として示しています)。

尚、最初に説明した通り、「治験」は、いつでも本人の意思で途中でも「治験」の参加を撤回することが出来ますが、中止時点における有効性の評価項目、自覚症状、他覚所見、臨床検査、血中濃度測定のための採血は実施され、治験データとして使用されます。

【今回の項目の纏め】

① 非臨床試験で得られた試験成績を基に、ヒトに新薬候補品を投与した時の有効性や安全性の予測を行い、明らかな効果が見られ、副作用があまり見られない場合には、ヒトを対象とした臨床試験(治験)を行うことになります。

②「治験」の方法としては、先ずは、健康な成人男性に対し、臨床第Ⅰ相試験として、少ない用量から1回(単回)投与し、問題なければ、用量を少しずつ増やして検討を行います。

③ 次いで安全と思われる用量で1週位の反復投与を実施します。

④ 健常人を対象とした「治験」において、問題がなければ、次に疾患を持った少数例の患者さんを対象とした臨床第Ⅱ相試験を行い、ヒトにおいて有効で安全な用法・用量、投与方法の検討を行います。

⑤ ここまでのデータで、ヒトに対する有効性、安全性に問題がなければ、申請前の最後の「治験」として、臨床第Ⅲ相試験が比較薬(既存薬ないしはプラセボ)との二重盲検比較法により、比較薬よりも優れた効果が得られ、より安全な成績が得られるかどうかの検討が行われます。
 
⑥ 従って、「治験」とは、新薬候補品が医薬品としての承認を得るために、ヒトに実際に用いて、その有効性や安全性を確認するために必要な試験という事になります。