2)「治験」の実施前に行われる基礎試験の内容

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● 先ずは、ヒトを対象とした治験(臨床試験)が開始されるまで、新薬候補品に関して、どのような試験が行われているか、1つ1つ確認していきたいと思います。

● この段階の検討を非臨床試験と呼んでいますが、以下のような基礎試験を詳細に実施して、ヒトに対して有効で安全に投与できる候補品かどうか、また、使用される候補品の品質は間違いのないものであるか等を検討するための重要なフェーズになります。

基礎試験の内容

(1)新薬候補品の合成、分析について
(2)一般毒性試験及び特殊毒性試験について
(3)薬効薬理試験及び安全性薬理試験について
(4)薬物動態試験について

それでは、順番に説明していきます。

(1)新薬候補品の合成、分析について

● 新薬候補品(ここでは効果のある成分を原薬と呼びます)の合成方法の確立、安定した製造(収率の向上)、製造量の増大方法(スケールアップの方法)を検討します。

● また、同時に原薬の物理学的化学的特性(溶解性、吸湿性、結晶形、安定性等の様々な性状)を確認し、目標とする原薬が常に確実に製造されていることを確認するための規格試験、確認試験、定量試験、安定性試験等の各種の分析方法の確立(品質を確保するための作業)、評価を行って、安定製造、安定供給を目的とした検討が行われます。

● これは品質が確実なものでなければ、ヒトに投与した時に、安全性に影響することから重要な意味を持ちます。

(2)一般毒性試験及び特殊毒性試験について

① 一般毒性試験

 ● 一般毒性試験については、次の5つの試験を行います

一般毒性試験の項目

 (ⅰ) 単回投与毒性試験
 (ⅱ) 反復投与毒性試験
(ⅲ)生殖発生毒性試験
 (ⅳ) 遺伝毒性試験
 (ⅴ) がん原性試験

② 特殊毒性試験

● 特殊毒性試験については、次の4つの試験を行います。

特殊毒性試験の項目

(ⅰ)皮膚一次刺激性試験
(ⅱ)免疫毒性試験
(ⅲ)発熱性物質試験
(ⅲ)エンドトキシン試験

(3)薬効薬理試験及び安全性薬理試験について

① 薬効薬理試験

● 薬効薬理試験は、病態モデル動物等を用いて新薬候補品が、対象とする疾患に効果があるかどうか、どの位の量(用量)で効果が発現するか、効果と用量の間に相関性はあるかを検討します。

● さらに、効果の発現に再現性はあるか、推定最小薬理作用量はどの位か、効果を示すのはどのようなメカニズムか、構造式のどの部分が効果に寄与しているか、主な代謝物に同じような効果があるか、効果はどの位持続するか等、新薬候補品の薬理作用の発現について、詳細に検討を行います。

② 安全性薬理試験

● 安全性薬理試験としては、主要な生理機能となる中枢神経系、心臓血管系、呼吸器系、消化器系、生殖器系等に及ばす影響を明らかにするための試験を、ヒト試験が開始される前に完了させておく必要があります。

(4)薬物動態試験について

● 薬物動態試験とは、新薬候補品が体の中に取り込まれて(吸収)、身体のどの部分に集積し(分布)、どのように無毒化され(代謝)、身体の外に出ていく(排泄)かを検討する動物等を用いた試験です。

【今回の項目での纏め】

① 以上のように、ヒトの「治験」を開始する前には、多くの基礎試験(非臨床試験)を、長期間掛けて実施します。

② もちろん、新薬候補品といっても、ヒトにとっては異物になります。疾患に対する効果(薬理作用)を有していたとしても、強い危険性(副作用)があるものは「お薬」にはなりません。

③「お薬」になる候補品は、ベネフィット(効果)が、リスク(副作用)より明らかに優れていなければなりません。

④ 逆に言えば、「お薬」は、どんなものでも、副作用が出る可能性はゼロではありません(「お薬」と言えども、ヒトにとっては異物である事には変わりはないからです)。

⑤ 従って、「お薬」は、常に各々の疾患に対してベネフィットーリスクを考慮して、そのヒトにとって、ベネフィットがリスクを上回るときに使用する事が一番重要な観点になります。

⑥ 今回お話しした非臨床試験は、新薬候補品の中から、ヒトに対するベネフィトとリスクを明確にするために、品質、有効性、安全性を明らかにするために行う試験になります。